アトピー性皮膚炎
成人期に再発するアトピー性皮膚炎が増加している
アトピー性皮膚炎は近年社会的問題になるほど一般的な疾患です。その頻度は平成4年度の厚生省の調査では3歳で8.0%、姫路市の小学校新入生の調査では平成7年度13.8%、平成8年度11.9%でした。生後3ヶ月までに50%、5歳までに86%が発症します。しかし自然治癒する傾向も見られ、1〜3歳頃より始まり、50%が8〜9歳までに改善し、16歳を過ぎると90%が自然治癒すると言われています。ところが近年中学生になっても治癒しなかったり、思春期・成人期になってから発症する例が急増しています。思春期・成人期発症する半数以上は幼小児期のアトピー性皮膚炎が再発したものです。
遺伝だけでは説明できない
一卵性双生児と二卵性双生児のアトピー性皮膚炎の発症一致率はそれぞれ62.5〜66.7%、40%といわれています。一卵性双生児でも一致しません。又、1967年の調査では、米国に移住してきた台湾の中国系移民では、台湾本土に比べアトピー性皮膚炎の頻度は8倍高いという調査があります。このことからアトピー性皮膚炎は遺伝と環境因子が複合したものです。
皮膚のバリアー機能が低下している
医療のかゆみ
気管支喘息では普通の人なら何ら影響しないような刺激、例えば冷たい空気、亜硫酸ガス等を吸入すると喘息発作を起こします。これは気管支が過敏であるためです。同様にアトピー性皮膚炎においても皮膚の過敏性が指摘されています。掻くと言う行為は容易にアトピー性皮膚炎の増悪を助長します。最近アトピー性皮膚炎ではバリアー(障壁)異常があると言われています。アレルギーの原因物質(ダニ等)による感作、細菌、ウイルスに簡単に感染してしまうという特徴があり、次のことが考えられます。皮膚から失われる水分量(経表皮水分喪失量)がアトピー性皮膚炎の患者さんの一見健常な部位でも正常者の約1.5倍、病変部位で約3倍もあります。この保湿機能の低下している原因として、表皮の角質細胞間に脂質である角質細胞間脂質があり、その中の約50%を占めるセラミドがアトピー性皮膚炎では、健常者の約2/3で、しかも最もバリアー機能に関係すると言われているセラミドの分画の一つであるセラミド1では健常者の2/5まで減少しています。このために外界より簡単に異物が皮膚より浸入してしまいます。
アトピー性皮膚炎は複雑な免疫反応による炎症
浸入した抗原は表皮内の抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞)で処理された情報がリンパ球のTh1とTh2という細胞に伝達されます。Th1細胞はB細胞に対して抑制の情報を、Th2細胞は逆にB細胞を刺激する情報をインターロイキンを介して出しています。正常の人ではこの2種類の細胞のバランスがうまく取れていますが、アトピー性皮膚炎ではTh2細胞が優位に働いているために、B細胞を刺激しIgE抗体が産生されます。産生された抗体はマスト細胞の表面にくっ付きます。そこへ抗原が浸入するとIgE抗体と結合して、マスト細胞が激しく反応し一気にヒスタミン、ロイコトリエン等の化学伝達物質を放出し炎症(赤く腫れる)を起こします。同時に好酸球を直接またはTh2細胞を介して刺激してさらに炎症を引き起こします。ここで重要なことはマスト細胞は抗原との反応以外に掻く事によっても反応すると言う事です。このために炎症がさらに増悪し、そのためにまた痒くなり悪循環に陥っていきます。
アトピー性皮膚炎の定義
かゆみ(掻痒)を伴い、特徴的な湿疹があり、憎悪・寛解を繰り返します。アトピー(喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎)の既往または家族歴がある事が多いようです。
症状は年齢によって異なる
cronic疲労シンドロームの原因
生後1ヶ月頃黄白色のかさぶた(痂皮)状の湿疹が頭部、前頭部、眉毛の生えている部分に出現する事があります。これは脂漏性湿疹と呼ばれるもので、掻痒感の少ないのが特徴ですがアトピー性皮膚炎の始まりの場合がありますので、注意が必要です。生後1〜4ヶ月頃に頭部、顔面よりじゅくじゅく(湿潤)傾向のある湿疹が出現します。この湿疹は次第に躯幹、四肢に拡大し関節屈曲部ではビラン(糜爛)が見られます。幼少児期・学童期では湿潤性病変が次第に減少し、かさかさ乾燥した乾燥皮膚と言われる状態になってきます。頚部、四肢屈曲部では小丘疹が集簇化(苔癬化)してきます。耳切れ・はたけなども見られます。思春期以後に再び悪化してくる例が最近増加しています。前頭部、髪の生え際、頚部、上� ��部に苔癬化湿疹、湿潤した紅斑が見られ、眉毛が粗となる。四肢、体幹の皮膚は粗く乾燥し結節性痒疹、貨幣状湿疹などが見られる事があります。頚部に色素沈着が出現します。
感染症の合併症として黄色ブドウ球菌と単純ヘルペス感染症が問題
黄色ブドウ球菌
アトピー性皮膚炎の患部を培養すると大部分の患者さんから黄色ブドウ球菌が検出されます。細菌感染が問題となるのは、小児では膿痂疹などを起こしやすい以外に、免疫細胞(Th2)を刺激し、アトピー性皮膚炎を憎悪させる方向に働くからです。このために細菌対策は重要です。最近よく行われている酸性水、ポピドン液による消毒療法はこのような考え方によるものです。補助療法として効果を上げています。
伝染性軟属腫
水いぼと一般に言われているものです。約1〜2年で自然治癒します。
カポジー水痘様発疹症
単純ヘルペスウイルスによるもので小児の場合は両親の「熱の花」と言われる口周囲のできものから感染することが多く、しばしば再発を繰り返す事があります。初めて感染した時は、アトピー性皮膚炎が悪化したものと勘違いして放置して重症化し、点滴や入院する事もあります。
目の合併症が思春期・成人のアトピー性皮膚炎に
白内障
原因がステロイドによる副作用と言われてきましたが、最近はアトピー性皮膚炎そのもので起こる事がほぼ確立されています。しかもかなりの割合でステロイドの塗布を突然中止し、眼周囲の湿疹が憎悪したために発症する例があります。
網膜剥離
腕や足にあざ
これは眼周囲の湿疹の掻痒のために激しく掻いたり眼を叩いたりするために網膜剥離を起こす事が解っています。アトピー性皮膚炎の症状を改善する事が大事です。予防のために思春期・成人期で顔面に湿疹がある時は定期的に眼科受診が必要です。
乳児期は食物に、成長するとダニ・カビにアレルギー
血中IgE値とはアレルギー反応を起こす特異的IgE抗体の総量を示します。特異的IgEはダニ、卵白、牛乳など個々のIgE抗体の値です。乳児期では卵白、牛乳、大豆、小麦粉等食物が陽性に出やすく、年齢を長ずるに従って、ダニ、ハウスダスト(家塵)、カビ(カンジダ、ピティロスポリウム)、花粉、動物のフケ(皮屑)、毛に対して陽性になっていきます。
検査に陽性であるから原因とは限らない
1歳以下では検査と症状とは比較的良く比例しますが、1歳を超えると特に食物で必ずしも比例しないことがよくあります。この場合、直接食べて又は制限して症状の改善・悪化を確かめますが、アナフィラキシーショックを起こす事もありますので医師の指導の下で慎重に進める必要があります。
症状のひどい時はとりあえずステロイド軟膏を
アトピー性皮膚炎がひどくなり病変部が盛り上がった状態になったり、浸出液が出てじゅくじゅくになったり、引っ掻きすぎて血まみれになる時は、迷わずにステロイド軟膏を塗るべきです。しかも症状を押さえられる十分な強さのステロイドを塗布すべきです。不十分な量、強さのステロイドをだらだらと続けると結局長期にステロイドを塗りつづけてしまいます。とりあえずは強めのステロイドでその場を押さえてから、塗る間隔を次第に開けていきます。ステロイドの強さも次第に下げていきます。
ステロイド軟膏は1日10g(2本)使用しても全身的な副作用(体重増加、高血圧、満月用顔貌 等)は見られません。実際にはこのような大量のステロイド軟膏を処方する事は希です。しかし局所の副作用として、皮膚萎縮(皮膚が薄くなる)、毛細血管拡張、紅潮、紫斑、にきび、多毛 等があります。これを防ぐには、急性憎悪の時期をステロイド軟膏で乗り切った後、2日に一度の塗布、又は、3-4日塗布後3-4日塗布しないようにコントロールすればかなり副作用を防ぐことが出来ます。その間に環境整備(ダニ、カビ対策)、食事療法、スキンケアに力を注ぎます。
スキンケアは重要
急性憎悪期はステロイド軟膏に任せた後は、非ステロイド軟膏でケアします。アトピー性皮膚炎の病変部は著しく水分保持能力が落ちていますので、非ステロイド軟膏を1日3−5回と頻回に塗れば塗るほど効果的です。ステロイド軟膏は薄く塗布しますが、非ステロイド軟膏はやや厚めに塗ります。入浴後はすぐに塗布する方が効果があります。塗らないで20分も経つと入浴で回復した皮膚の水分は再び元の水分の少ない皮膚に戻っています。また非ステロイド軟膏は荒れた皮膚の表面を覆うことで、外界から種々の刺激物質、抗原が浸入するのを防ぎます。
環境整備を入念に
ダニは乳児期を別として幼児期から成人まで重要なアレルゲンです。ダニ対策では湿度の管理が大事で、相対湿度50%前後が理想的です。ダニは60%を超えると繁殖します。毎日接触する布団の管理も大切です。最近はダニの繁殖しない布団、ダニの浸入しない高密度カバーが市販されています。
シックハウス症候群にも注意
新しく家を新築したり、改築した後アトピー性皮膚炎が悪化する例がよく見られます。合板、接着剤等から発生するホルムアレデヒドは皮膚を刺激して憎悪させます。
植物油の落とし穴
近年アトピー性皮膚炎が増加した原因の一つとして油の問題が注目されています。従来植物油に含まれているリノール酸は健康に良いと言われ積極的に摂取を勧められた時期がありましたが、近年図のごとくロイコトリエンB4、C4、D4、E4やプロスタグランディン2、トロンボキサンA2に代謝されることが解ってきました。ところがこのロイコトリエンB4、C4、D4、E4、プロスタグランディン2は強力なアレルギー様炎症を引き起こす物質です。さらにトロンボキサンA2は血栓を生じ易くします。つまり健康によいどころか現代病であるアレルギー、心筋梗塞、脳梗塞を引き起こしやすくする方向に働くのです。一方α-リノレン酸もロイコトリエンB5、C5、D5、E5、プロスタグランディン3、トロンボキサンA3に代謝されますが、この系ではリノール酸系に比して活性は数十分の一しかありません。またα-リノレン酸系とリノール酸系では同じ酵素で代謝されるためにα-リノール酸系を積極的に摂取するとリノール酸系が抑制されるます。α-リノレン酸系はしそ油、野菜、魚、海草に多く、リノール酸系はコーン油、大豆油、サフラワー油、月見草油、マーガリンに多く含まれています。
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